府職労自治研推進情報誌「コミュナルスクエア」7号より

雪印問題で問われる国の食品安全管理責任 ~いまこそ公衆衛生機能の拡充強化を!~

保健所支部 小林 孝三

1.戦後最大の食中毒事件は何故起こったか-求められる消費者本位の企業の在り方-

雪印乳業大阪工場で製造された低脂肪乳など乳製品による集団食中毒事件は、一万四千人をこえる、食中毒としては戦後最大のものとなってしまいました。
事件発生からこれまでの調査では、雪印大阪工場とともに原材料である脱脂粉乳を製造している北海道雪印大樹工場の安全管理の実態に大きな問題があることが明らかにされました(行政と警察は雪印大樹工場で製造された脱脂粉乳に原因を断定しています)。
雪印大阪工場での屋外での不衛生な調合作業、乳製品の再利用、バルブ清掃の手抜き、「ハサップ(HACCP=総合衛生管理製造過程)」申請時での問題「工程」の隠蔽というおよそ食べ物を扱う企業としてあるまじき「ずさんさ」が明らかになりました。
北海道大樹工場においても、停電という事態の中で加温された材料が製造ラインに乗せられたこと、毒素に汚染された製品を再利用したことなど安全管理上同様の問題点が指摘されています。
また、工場幹部の中に「どうせ殺菌されるのだから」と、黄色ブドウ球菌から生成される毒素エントロトキシンは加熱殺菌しても残ってしまうという初歩的認識が欠落していたことも明らかとなっています。
情報の公開とともに製品の回収の遅れについても責任が問われています。また、企業内リストラによる人員削減の結果引き起こされた現場労働者の長時間過密労働を始めとした労働条件の悪化の事態が、安全管理部門への「しわよせ」を強いてきたとも指摘されているところです。
同時に、これまで公衆衛生施策の拡充に背を向けてきた国・自治体の責任問題も大きく浮かび上がってきています。

2.問われる国の安全管理責任-公衆衛生(食品)行政の充実こそ食の不安を解消-

食中毒を始めとした食べ物の安全確保は公衆衛生の基本的役割であり、この体制を整え行政を進めるのは国と自治体の責務です。
しかし、国はこの間一貫して公衆衛生行政の第一線機関である保健所の統廃合を進め、食品衛生行政に直接関わる食品衛生監視員への国庫補助制度を打ち切ってきました。この一方で国は「規制緩和」「民間活力の活用」など企業の「自主管理」を推進、自治体では「リストラ」が進められ全国的にも食品衛生監視員は削減されてきました。
「地域保健法」制定後、北海道を含め全国的に保健所の統廃合と人員削減が進められてきています。
大阪市でもこの4月から各区1保健所体制から1保健所24保健センタ-(監視機能などは実質的には1保健所に引き上げ)へと大幅な統廃合が強行されています(監視員も12人削減)。大阪府でも同様に、この4月から22保健所7支所体制から15保健所14支所へと人員削減を伴う大幅な縮小「再編」が進められています。
食品の安全確保のため地域にあって飲食店、乳類・食肉関係業種などの監視指導を担っているのが保健所の食品衛生監視員です。
ところが、このように公衆衛生をとりまくお粗末な現状のなかでは現場の努力と奮闘にもかかわらず絶対的な人員不足で、食品衛生法で国が決めている「法定監視回数」からはほど遠い実施率という実態が長らく放置されていました。
加えて、製造過程の複雑化、製品流通の広域化など今日の食品をとりまく状況ではかってなく事件の大規模化と深刻な社会的影響を引き起こしてしまうことは明白です。
だからこそ地域の身近にあって、食中毒の未然防止など日常的に食品の安全確保をめざすきめ細かい企業・事業場への事故防止など危機管理体制の強化、基本的な衛生管理など監視や指導、住民への食品衛生の啓発活動などを進める保健所と監視員の人員など体制の充実強化など公衆衛生行政の抜本的拡充が求められているのです。
このような意味から、今回の事件は企業の責任はもちろんのことですが、国や自治体の公衆衛生に対する責任放棄の姿勢もまた問われているのです。

3.再発防止にむけて-戦後最大の食中毒事件から何を教訓として導くべきか

戦後最大の食中毒事件が、現在一番進んだ衛生管理の手法を取り入れた「ハサップ承認施設」で製造された製品において引き起こされたことに多くの関心を集めています。
また、大樹工場で製造される原料の脱脂粉乳についてはハサップ対象外となっていたことも問題視されています。
ハサップ的衛生管理といえども、「一般的衛生管理」の徹底が基本であることは当然のことです。ところが、今回のように、炎天下屋外でのタンク投入作業、バルブ清掃を2~3週間も放置する、加温され細菌増殖の可能性のある原料を再利用するなど「一般的衛生管理」がずさんであれば、「ハサップ承認施設」といえど大変な食中毒事件を引き起こしてしまうことを如実に示しています。
また、ハサップ承認申請において、工場全体を網羅せず、極めて危険度の高い作業工程を欠落させていたことと、これに対して国と行政が承認審査の段階で指摘し得なかったことに(できなかったシステム上の問題も含め)大きな批判が集中しています。ハサップ承認施設での原料の安全チェックの必要性も改めて指摘されています。
現に、いまのハサップ審査を担当する国・厚生省職員は専任一人、兼任五人にすぎず年間140を超える施設の審査を行っているといわれています。
厚生省の対策本部で、申請時に施設・設備の原本の写しを添付させるとともに(今回の事件での製造工程の隠蔽防止のため)とともに担当職員を十三人に増やすことを決めた模様です。
合わせて、国・厚生省は「ハサップ承認施設」を受けた牛乳製造工場に対し、原料の脱脂粉乳の毒素検査を義務付ける方向での検討も決めています。
このことは、まだまだ不十分な改善とはいえますが、ハサップ承認申請システム・査察体制の強化が不可欠であること認めるものです。
日常的な監視点検体制の強化で、企業の衛生管理システムを形骸化させず、企業の自主管理に任せきることなく国と行政が責任をもって進めていく体制の確立がいま強く求められています。

4.おわりに

コスト・効率優先、安全軽視の企業体質の是正と国・行政が国民のいのちと安全を守る立場から「規制」と監視を強めていくという「当たり前」のことがいま問われているのではないでしょうか。
企業のモラルバザ-ド、職場の自由と民主主義の問題、国と自治体の責務。食中毒、輸入食品、遺伝子組み換えなど今日の食を取り巻く状況は、今回の原因の徹底解明と抜本的対策の確立など食の安全を守るための確固たる体制づくりが求められているのです。
老若男女一万四千人を越える人たちにおう吐・下痢などの健康被害を与え、現場労働者と乳牛酪農家、乳類小売り業者に大きな被害を与える大事件となってしまいました。
同時に、雪印も企業として莫大なダメ-ジを被ることとなりました。
大企業の社会的責任の絶大さ、社会的モラルの重大さ、そして、とりわけ食品メ-カ-の「いのち」ともいえる安全管理の重大性が改めて浮きぼりになるとともに、このような大事件を未然に防止すべき公衆衛生(食品)行政の重要性と国と自治体の役割がまさに問われるものとなりました。

介護保険でますます遠のく住民との距離

保健所支部 大園 篤子

1.「社会福祉基礎構造改革」のトップランナーとしての介護保険

不安と問題だらけの介護保険がスタートして5カ月がたった。丹羽前厚相は「ともかくスムーズなすべり出し」と国会で答弁していたが、こんな先兵を軟着陸させては大変なことになる。というのも、「公的責任から自立自助へ」「措置から契約へ」「市場原理の導入」という社会福祉・社会保障制度の質的転換政策が着々と具体化し、先の国会(2000.5.29)で社会福祉事業法が改正され、2003.4には障害者福祉事業も契約へと転換する。
また、介護保険と整合性をもたせるため老人医療費も1割負担とする改悪案が次期国会に提出が予定されている。

2.誰でも安心して介護が受けられるには程遠い実態
(1)保険料が払えない──いよいよ高齢者からも保険料徴収開始

10月からの保険料徴収にむけて、殆どの高齢者に「保険料徴収のお知らせ」が市町村から郵送されている。月15000円以下の年金受給者や生活保護受給者からも最低額の1500円の保険料は徴収される。現在、国民保険料の滞納者は全国で350万人おり、これに介護保険料が上乗せされたら、滞納者は急増するだろう。総選挙前の特別対策で向こう1年間は半額徴収だが、1年後はどうなるのか?!
しかし、保険料の減免措置を実施する自治体は全国でも少数で、大阪府下ではない。それどころか、大阪府は8月1日からこれまで老人医療の一部負担相当額への助成を住民税非課税世帯を対象外にした。
私達2号被保険者はすでに4月から給与天引きされ、私(50歳-6級21号)で1685円である。先日、地域社保協幹事会で生協の幹事さんが「わが家(一馬力)で30年間で払った税金と保険料の合計は6000万円やわ」と。払った額にふさわしい保障をされているだろうか?今までの社会保障制度ですらこうだから、社会保障の大転換と消費税増税が実施されればこの比ではないだろう。
介護保険制度を導入する事で従前の高齢者福祉サービスにかかる国の負担分(1/2→1/4に、2500億円削減)を元に戻すべきである。そして、少なくとも非課税世帯の保険料徴収はすべきではない。

(2)要介護者の実態や願いを反映しない介護認定

開始前から痴呆症に対する調査項目がやコンピューターソフトの欠陥が多くの関係者から指摘されていたが、「毎日デイサービスに通えなくなり、仕事を止めた。症状が悪化した。家族関係がこじれた。」などの例は少なくない。単純な能力評価でなく、必要な介護量の保障という観点での認定調査にしないと、要介護者や家族の願いは反映できない。今、開始後6ヵ月後の更新申請が行われているが、家族からは「介護度を軽く認定してほしい」という声が少なからずあがっている。重度に認定され一杯サービスを受けても、利用料が払えないからだ。また、同じサービスでも介護度が軽いほど安価だからだ。
介護度でなく、利用料負担能力でケアプランをたてるのは当たり前になっている。

(3)利用料が払えない────利用控えて症状悪化

日経新聞調査で限度額の6割までしかサービスを利用していない人が、全体の7割をこえている。国は軽減策として、訪問介護に限って利用料を3%にしたり、高額介護サービス費など低所得者対策を駆け込み的に打ち出してきたが、期限つきだし、今後どうなるかも不安定だ。その他のサービスは概して高くなったか、無料が有料になったものが多く、訪問看護は老人医療では、1時間250円だったのが830円になった。そのため「回数を減らして床擦れができた」「時間を減らすため、リハビリをかねての排泄訓練ができずおむつ交換に切り換えるよう言われた。尿意があるのにおしめのなかで排泄することの屈辱から、断食をした」など、負担増はとりわけ低所得者を直撃している。こうした実態を反映して、市町村単位で利用料減免制度を実施しているところが増 えつつある。利用料減免要求を広げ制度化させることが急務である。
現在は、障害福祉制度や医療費公費負担制度があり、介護保険優先とはいえ、それを補完する制度があり、保健婦など関係者の支援で無料の制度がかなり利用できているケースもある。2003年をにらんで、これらの制度を後退させない実践ができているだろうか。

(4)民間参入と介護の質の低下と人間の尊厳の軽視

利用者の自己負担が増えたのに、事業者に入る「介護報酬」は、訪問看護で1万円から8300円に切りさげられている。ヘルパー派遣をメインにした「コムスン」が早くも大幅縮小を打ち出したのも象徴的である。厚生省は営利企業の参入を奨励し、企業も新たな事業展開をねらっている。採算を上げるために犠牲になるのは、要介護者であり、そこで働く労働者である。規制緩和に歯止めをかけ、行政と非営利の民間事業者や住民組織が一体となって、人間の尊厳を守る介護ネットワークを作り上げないといけない。

(5)行政責任の後退とますます遠のく住民との距離

2000.3厚生省は「今後、原則として市町村職員が訪問調査するよう改めることを促す。」と要請している。殆どが、介護支援事業者に委託して行われ、要介護度が予想より高めに偏ったためである。委託する場合でも公的団体に委託するか、施設入所者には一定割合を市町村職員が、別の事業者が行うよう指示している。
しかし、実態は逆で「丸投げ」があたりまえになっている。市役所は保険料徴収と保険証と認定通知を発送するだけの機関になってしまうのではないかとゾーとする。相談・苦情の窓口に多くの相談はあるが、いろいろ説明しても結局「貴方の場合どうかはケアマネージャーに相談していください」ということになり、ケースワーカーの仕事はさせてもらえない。介護者や家族との接点がなくなり、住民の実態把握が困難になりつつある。
市町村保健婦から「介護保険申請した人は関わらない」という声が少なからずあるが 山積した仕事のなかで、とても継続ケアなんかしていられないというのが理由ではなく、「個人の契約に介入するのは間違い」という理由からである。保健所保健婦が難病患者さんの調査に立ち会うのも、本庁で調整があり「お墨付きの文章」が流されOKとなった。これは「利用契約としての福祉」へのあやまった解釈であり、自治体労働者・保健婦・公衆衛生の仕事の放棄である。
さらに、都道府県職員となるとさらに遠くなる。各保健所から介護認定審査会に委員として2~3名参画しているが、年間40回もの委員会参加も「職免」(本来業務でない)とされている。
しかし、保健所で働く私達は難病や痴呆の患者さんの生活を支え、市町村や地域の民間事業所の労働者たちと連携しながら、介護保険や地域の問題を出しあっている。また、家族会や当事者組織の育成のなかで要求を顕在化させ、かしこい利用者を増やしている。また、介護サービス事業所の調査や監視(これは近い将来)も保健所の仕事となる。これらを形骸化させず、患者さんの立場にたった監視・指導を確立しなくてはいけない。そして一方では、地域の社会保障推進協議会などで住民の声をきき、ともに運動していくことも欠かせない。