府職労自治研推進情報誌「コミュナルスクエア」9号より(3)

自治体規模の拡大か、それとも住民参加の地域づくりか
- 市町村を巡る二つの道 -

商工労働支部 横溝 幸徳

はじめに

高度成長期において住民は自治体にサービスの提供を求めました。しかし、安定成長期に入ったこと、中央集権的に運営される官が時代に即応出来ずに赤字を垂れ流したことで、住民は施設やサービスを必要に即したものとするには官任せにするのでなく住民の参加も必要であることを認識し始めました。
住民が官の正義に疑問を持ち、現在のサービスやその水準は住民の必要を満たすものか、また、その事務の遂行について住民の意見を反映しているかを問い始めたのです。
これに対する回答としては、レーガン、サッチャー、小泉内閣のように①経済成長(労働生産性の向上)が過度の平等主義によって阻害されているとして、税負担の水平的公平を図ると共に、中央政府と地方政府の事務と権限を削減して出来るだけ民にゆだね、地域的利害を排除して行政の効率的遂行を図る見地から自治体の規模拡大を図る、いわば市場化の方向と、北欧のように②低成長を踏まえて地域資源の効率的活用を図る見地から、共同事務を出来るだけ住民に身近なところで行うよう地域コミュニティに一定の権限を与えるとともに、住民が官を管理しやすいように情報を整備する方向があります。
②の立場からすれば、今日の課題は、地域資源を有効に活用して、全ての地域で個性ある発展を図るために、住民の手の届く範囲内での自治を発展させ、あるいは自治体行政のコストとサービスの内容あるいは価値を住民が分かるように公開するための方策であって、民営化や自治体規模の拡大ではありません。
しかし、現在、政府は①の立場に立って市町村合併を積極的に指導しています。介護保険の安定的運営ということも挙げられていますが個別課題は広域連合等でも対応できます。
ところで、背景に国の財政危機があるため、合併論に関して①と②を比較した場合、自治体合併が自治体財政の効率化と国の財政負担の軽減をもたらすことになるかということも大きな論点になります。
そこで、以下この点を検討します。

効率性の面から見た自治体規模

自治体の財政面から見た効率性を測定する方法としては、公債費を除いた経常的支出に必要な1人当たりの一般財源が適切でしょう。
そこで私は平成7年度の「」を用いて以下の考え方で、これを算出しました。
経常一般財源はほぼ標準財政規模に相当します。ところで、「経常収支比率=経常的支出に必要な一般財源/経常的一般財源」であるので、「経常的支出に必要な一般財源=標準財政規模×経常収支比率」です。このうち「公債費を除いた経常的支出に必要な一般財源=標準財政規模×(経常収支比率-公債比率)」ですので、これを都市人口で除して1人当たりの経常的支出に必要な一般財源を算出します。
算出の対象としたのは、全国663市(東京都区部を除く)です。

自治体の適正規模

1人当たり経常的一般財源必要額と都市の規模との相関関係を見たのが図1です。
これによると、都市の規模が5万人以下では、規模が小さいほどが増え(相関係数は68.6%)、50万人以上では規模が大きいほど増える(相関係数は67.7%)傾向があります。
これは、都市を維持運営するのに最低限必要な経費が存在するため、5万人を下回るときは財政効率は良くないこと、都市の規模が大きくなると地域社会の機能が衰退することや過密がもたらす行政需要が発生することによると思われます。

次に1人当たり経常的一般財源必要額と人口密度の相関関係を見たのが図2及び図3です。
これによると、人口密度500人/平方km以下では1人当たり経常的一般財源必要額は人口密度が薄いほど増えます(相関係数56.3%)。
また、人口規模が50万人以上の都市でも人口密度1000人/平方kmになると1人当たりの経常的一般財源必要額との相関が高まります(相関係数68.6%)。
これは、人口密度が薄いと同じことをするにしても経常的一般財源必要額が増えること、人口密度が大きいほど過密がもたらす行政需要を生じることを示していると思われます。 ところで、都市人口と経常的一般財源必要額との関係(人口密度が低いと都市の合併が効率的で、人口密度が高いと都市の分割が効率的といえるか)を見るために、経常的一般財源必要額と「人口規模×人口密度の1/2剰根」との相関係数を見ると、50万人以上の都市では相関係数が強まり(相関係数70.8%)、5万人以下の都市では分散が小さくなります。.(図3)
ここから人口規模が50万人以上の都市ことに人口密度1000人/平方km以上の都市は、人口規模が拡大すると新たな需要が生じたり公共事務の総合的遂行という観点から見て非効率な面が生まれている可能性があるといえます。
また、人口規模が5万以下の都市や人口密度が500人/平方km以下の都市は財政的には非効率で、同じ人口密度なら人口規模が大きいほど経常的一般財源必要額は少なくなるといえます。尤も、この前提は自然的条件や文化的条件等で効率が悪化しないことです。

国から見た効率性と自治体から見た効率性(地方交付税と市町村規模)

地方交付税は基準財政需要額と基準財政収入額の差額を自治体に交付するもので、その前提となっているのは基準財政需要額は各自治体の経常的支出に必要な一般財源を正確に反映しているということです。
そこで、基準財政需要額/一般財源必要額と人口密度との相関関係を見たのが図4と表です。
これによると、基準財政需要額/一般財源必要額は、5万人未満の自治体ではほとんど1を上回り、人口密度が増えても1.2程度を維持していますが、5万人以上の自治体では人口密度が増えるに伴って減り、人口密度1000人/平方kmでは平均で1.2を下回り人口密度5000人/平方kmでは平均で1を下回っています。(表)
つまり、都市の規模が5万人以上の場合には、人口密度が高い都市ほど基準財政需要額が実際の経常一般財源必要額に対して低くなり、5000人/平方km以上になると基準財政需要額が実際の経常一般財源必要額を保障しなくなるということです。
従って、5万人以上都市の合併は、人口密度が高くなるにつれて経常的一般財源必要額を高めるほどには基準財政需要額を高めず、国にとって財政負担の軽減になっても自治体にとっては財政のゆとりを損なう恐れが大きいといえます。
大阪府下の市は、全て5万人以上規模で1000人/平方km以上です。
従って、大阪の市町村では、合併が財政的にゆとりをもたらすとか、財政的に見て効率性をもたらすと推認することはできません。
むしろ、地域の人的、物的資源の有効な活用を図るために、住民参加を進めコミュニティレベルで地域住民の知恵を地域振興に生かすような手だてを取ることこそ、真に効率的で活力もある自治体を形成する道ではないでしょうか。

 

ページトップへ