府職労自治研推進情報誌「コミュナルスクエア」9号より(1)

決算書から大阪府財政危機の実相を読む
-起債制限比率引き下げに向け、事業支出削減を-

商工労働支部 横溝 幸徳

はじめに

家計では、消費的日常生活(衣・食、光熱水費、補修、家賃、医療費、授業料、借金の金利返済)は給与、貸し屋収入など経常的収入で購われます。
家の購入など大きな買い物は、給与に借金の元本を償還できる余剰がある範囲で行われるのが普通です。もし余剰がなければアルバイト収入を得たり、日常生活を切りつめたりして償還に対応できる余剰をつくる努力が必要になります。借金返済のために借金を重ねるようになるとそれこそ破産してしまいます。
さらに不測の事態に備えて最低限の預金・保険を蓄える余剰も必要でしょう。
そこで健全に家計を管理するためには、経常的収入から日常生活費(経常支出)を引いた経常収支余剰を把握し、償還財源と貯蓄必要額にどれほど割り当て可能か(資本収支)を見通して、事業収支と財政収支について身の丈の将来設計を立てなければなりません。
自治体会計も消費会計で、考え方は家計と同じです。ただ、国から一般財源や特定財源が配分されこれが収入として織り込まれているので、その実態も把握しておかないと健全な財政運営はできません。
そこで、以下において平成2年と平成8年から平成11年までの大阪府の普通会計(一般会計から流域下水道事業を除き、特別会計を加えたもので、企業会計を含まない)について、醍醐聡教授(「自治体財政の会計学」)提案の経常収支計算書と資本収支計算書の2区分収支計算書を基本として大阪府財政を分析し、大阪府の財政の現状と問題点を明らかにします。
なお、①都市施設を適切に更新するのに必要な公共事業費を把握するために各年度の減価償却費を織り込んだ情報が必要であること、②大阪府の債務負担行為に基づいて土地を買っている土地開発公社は会計的には大阪府の代理行為をしているに過ぎず、その購入時点で大阪府の債務が発生したと見るべきだから連結決算すべきこと、③企業会計のうち土地を商品として扱っているものはその商品を実際に売るであろう価格つまり低価主義で毎年再評価して貸借対照表を作成することで地価の暴落により思わぬ損害が大阪府に及ばないようにすべきことなど、普通会計以外も多くの問題を抱えていますが本稿では扱いません。

1.経常収支余剰がマイナスになっても減らなかった事業支出

平成2年と平成8年から平成11年までについて、経常支出、事業支出、財務支出をみると(表1)、経常支出は平成2年度の1兆3130億円が平成8年度までに1兆5515億に拡大したものの、経常収支余剰は平成2年度で3717億円あったのが平成8年度にはマイナスとなり、以降マイナスが続いています。
ところが、事業支出は平成2年度から平成8年度にかけて、5023億円から6023億円と増加し、平成10年度に経常収支余剰のマイナスが1756億円に拡大してもほとんど変化していません。

2.基準財政需要額分の財源を保障されてもマイナス続く経常収支余剰とその原因
(1)過小だった9年度10年度の地方交付税

経常収支計算書を見ると、平成2年度には3820億あった経常収支余剰は、平成9年度にはマイナス1124億、10年度にはマイナス1756億と大幅な赤字となり、平成11年度でようやくマイナス27億とほぼ均衡するようになっています。(表1)

 

平成9年度10年度の大幅赤字原因の第1は、大阪府の基準財政収入額(税収の80%+地方譲与税+交通安全対策交付金)が実際の決算額よりかなり高く見積もられたため、それぞれの年度の地方交付税が本来受け取れる額をそれぞれ950億円、1560億円程度下回ったことにあります。(表2)

この結果、大阪府の平成9年10年の経常収支比率は112%、117.4%と急激に上昇、余裕財源率も極端に悪化し平成10年9月に大阪府財政再建プログラムが決定される原因ともなりました。
無論、決算に基づく交付税不足は放置される訳ではなく、法律上翌年度以降の交付税で調整されることになっています。
ところが、現実にはその差額について、当年度末において起債対象事業がある範囲で減収補填債(元利償還額は後の基準財政需要額に算入される)で措置され、措置出来ない分は後の3カ年にばらして措置されることとなり、平成9年には1014億円、平成10年度には693億円、平成11年度には668億円の減収補填債が認められました。
しかし、減収補填債の償還金が自治体の負担とならないといっても、これによっては経常的一般財源は改善しません。
従って、本来は翌年度の交付税の増額を求めるべきで、財政再建計画で府民の協力を求めながら減収補填債による措置をなんの抵抗もなく受け入れてきたこと自体、経常一般財源を削っても公共事業を削らないとの姿勢を示したものといわざるをえません。

(2)不況下で大都市に不利な地方交付税制度
ー基準財政需要額の適正化と府県税収の安定化を図る改革をー

平成8年から大阪府が地方交付税の交付団体となったことで東京都以外の全府県が交付団体となりました。
ところで、地方交付税は基準財政需要額(標準的な行政を執行する為の経費の内一般財源で賄うべき額)と基準財政収入額(税収見込の80%+地方譲与税+交通安全対策交付金)との差額を地方交付税として交付する仕組みです。従って基準財政需要額に税収の20%を加えたものが標準財政規模(=税収額+地方交付税+地方譲与税+交通安全対策交付金)となります。そして、標準財政規模が適切に計算されていれば標準財政規模にその他の経常的一般財源を加えたものが経常的一般財源となります。一応標準財政規模が適切に計算されている平成8年度と平成11年度の余裕財源率(「経常的一般財源/基準財政需要額-1」)は20%程度(表3)ですので、基準財政需要額の20%分の余裕財源を保障するというのが地方交付税法の考え方と言えるでしょう。

そこで基準財政需要額が適切であれば地方交付税を受けている府県の経常収支比率(経常経費充当一般財源(臨時的原因で歳入した一般財源を含む)の経常的一般財源に対する割合)は、83%程度が想定されているといえます。
しかし、大阪府の経常収支比率は、地方交付税の交付を受けながら経常収支比率は100%を上回っています。
この原因としては、ア.もともと基準財政需要額が低く見積もられているため実際は余裕財源がないこと、イ.税収減で基準財政需要額を上回る余裕財源として認められている税収×0.2が低下したこと、ウ.人件費、補助費、公債費が増大してきていることが挙げられます。
アは、同じ交付団体でも大都市圏での経常収支比率の悪化が著しいこと、大阪府の人口当たり職員数は埼玉県についで少なく、給与水準はラスパイレス指数は101.6で平成12年4月には全国で下から7番目であることを根拠としています。
この点、大都市圏の府県では税収の景気変動が大きく好景気においては財源を蓄えることが出来るはずとの反論が考えらます。しかし、府県に景気調整機能を押しつけるべきではなく、大都市府県における基準財政需要額の適正化と共に税収の安定化をこそ図るべきです。
このため、所得税の一部の府県移転、大規模法人(資本金1億円以上)の法人事業税に資本規模に応じて外形標準を導入することが検討されてよいと思います。

(3)府民福祉を守るには税収の向上と公債費の抑制が必要

人件費以外の経常支出では、平成2年度から平成11年度までに扶助費、補助費等、公債費利子分が増大しています。一方、税収×0.2(地方交付税算定に当たって基準財政需要額を上回る需要に対処するための余裕一般財源とされている)の経常収入総額に対する割合は、税収の減少で平成2年の16.0%から漸次減少し平成11年には12.2%となっています。
この結果、経常収入(特定財源を含む)総額に占める扶助費、補助費等、公債費利子分(交付税措置分を除く)の割合は、平成2年度での2.7%、15.2%、4.4%が、平成11年度には4.5%、18.9%、5.1%となりました。このうち、扶助費は経常的国庫支出金で措置される割合が高く、補助費等(私学助成や老人医療費など)と公債費利子分(交付税措置分を除く)は経常的一般財源に依存しています。
従って、安定した税収の確保と、公債費の削減は福祉水準の維持にとって不可欠の課題といえます。

3.経常収支余剰がマイナスでも減らない事業支出規模
(1)借金で事業を継続

事業支出規模は、平成8年度以降は平成2年度に比して1000億ほど増加して6000億円程度となっています。事業支出の内容に付いてみると、普通建設事業は11年度3700億円で、平成8年度の5000億円から毎年漸減し平成2年度の水準になっていますが、投資・出資は平成2年度の230億円から平成11年度の500億に増加し、公債費(元本分)は100億から1600億に増加しています。(表4)

事業収入について見ると、平成2年度は3800億円の経常収支余剰があり、2415億円の資金不足を自己資金で埋め合わせしていましたが、バブル崩壊後は、経常収支が赤字になったため起債に依存するようになっています。このため、平成2年度に936億円弱であった起債は、平成8年度以降漸減しながらも毎年3000億円程度を推移しています。

(2)事業支出を誘発した補助金と交付税補助金化

ところで、公債増発により事業を拡大することへの誘惑は、補助金が特定財源として国から支給されて自己資本となるので、借金をして事業をしても自治体の純資産が増える仕組みにあります(表6)。
この仕組みが地方交付税にも導入され、地方債償還額を地方交付税で見るようになったことで平成10年頃まで単独事業も大きな比重を占めました(表4)。
従って、公債増発の誘惑をなくすには、補助金を廃止しこれに見合う税源を地方に移転することとともに、交付税の補助金化を止めさせることが必要です。

4.金融資産を食いつぶす経常収支と事業収支の赤字

財務収支計算を見ると、地方債でも埋め合わせできない事業資金不足は、経常収支余剰、繰入(積立金取崩し等)超過、貸付金回収超過額によって埋め合わされています。(表5)
繰入超過額は平成9年10年とほぼ1000億円、貸付金回収超過額は平成9年度は58億円平成10年度は959億円平成11年度は669億円となっています。

5.地方債依存で財政危機深刻化

自治体の資産は処分を想定しているものでも利益を生むものでもありませんから、資産を増やしても債務を増やしたり経常支出を圧迫すると、府民福祉が後退することになります。
そこで、平成8年度に2242億であった自己資本純増が、平成11年度には2460億に増加していても、負債純増が3516億から2299億となお高水準を続けているのは問題です。
一方、金融資産収支をみると、平成2年度では1249億円の黒字でしたが、平成8年度には3308円の債務超過となり、以降も2400億円を上回る債務超過を続けており、平成10年度からは金融資産の取り崩しも始まっています。(表6)

ここから、借金に依存しつつ自己資本(国の補助金を含む)をつぎ込んで資本的支出を維持してきたこと、これによって当面の資金繰りも苦しくなってきたことが読みとれます。

6.また「赤字財政再建団体」転落論でリストラ推進する当局
起債制限比率引き下げに向け、事業支出の削減を

(1)自治体破産を防ぐため、総務省は起債制限によって起債による事業拡大への誘惑を断ち切る事を強制する権限を持っています。すなわち起債制限比率(公債費のうち繰上償還分、交付税措置分、特定財源分を除いたもの/標準財政規模から交付税措置分の公債費を除いたもの)が15%を超えると、10%に抑えるように公債費適正化計画(5カ年計画)の策定が必要となり、20%を超えると、一般単独事業、公正福祉整備事業の30%をこえると公営住宅建設事業、義務教育施設整備事業に係る地方債の起債が制限されます。(地方債許可方針(通達))

(2)一方、「赤字財政再建団体」は1954年度に地方財政再建促進特別措置法(昭和30年法195号)の指定を受けた団体のことで、この適用を受けたい団体は自治体の議会の議決を経て自治庁に申し出、財政再建計画を作って赤字を起債で埋めてもらい、利子補給という公的資金の注入と自治省のコントロール下に再建を果たすものです。
この法律に強制適用の条項はありませんが、赤字が一定の幅以上になると、再建団体の指定を受けないことへのペナルティとして、文教、厚生、消防、土木施設などの公共・公用施設、および公共・公用の土地の取得のための起債は認められないという制裁が用意されていました。
現在の財政再建団体は1955年法の準用によって再建を行う「準用再建団体」をいいますが、この指定を受ける「資格」は、都道府県においては実質収支の赤字が標準財政規模の5%以上であることです。
しかし、自治体の財政は現金主義で、現金が入ってくるものは借金だろうが何だろうがすべて歳入となるので、借金をすれば赤字にはならなくてすみます。そこで、現実には起債許可を受けられるかどうか、起債制限比率が問題となるわけです。
借金や積立金の取り崩し、貸付金の回収超過で資金不足を埋め合わせて金融資産が減少している自治体が、起債できなくなると資金繰りに窮します。

(3)ところで、大阪府の起債制限比率は平成9年度から11年度までの3か年平均で10.4%、11年度単年度では12.4%なので、起債削減に向けて努力しなければならない段階に入ったところといえます。(表7)

平成11年度の公債費の元本分は1617億円で事業収支規模の19.6%ですが、交付税で措置される部分が増加しており、地方交付税で措置されず府が直接責任を負うべき額は1019億と事業収支規模の12.1%(表4)なので、普通会計だけでいえば見た目ほど深刻ではなく、対策可能な範囲といえるのです。
むしろ私たちは、当局が起債制限比率でなく実質収支を問題とすることで、事業収支の問題を経常収支の問題にすり替えないよう、運動を強める必要があります。