府民にも、職員にもメリットない大阪府企業局移転

土建支部支部長 橋口紀塩

りんくうゲートタワービル救済策

大阪府企業局は、昨年11月に企業局の本庁職場(水と緑の健康都市建設課を除く)をりんくうゲートタワービルに移転する計画を明らかにし5月に移転しました。大阪府職員労働組合土建支部に提示された移転理由は「りんくうタウンと阪南スカイタウンを企業局の組織をあげて完売するため、現地性を重視することで、分譲への取り組み姿勢を対外的に示す」としていました。マスコミが報道するような「ゲートタワービル(株)の救済策」ではないということですが、土建支部は職場の討議も踏まえ「企業局本庁移転案の撤回を求める」申し入れを当局にしました。府民にとっても、職員にとってもメリットがない今回の移転です。

なぜ賃貸料の高いところ移転か

企業局は現在、下表に示した業務をすすめています。本庁職場は大阪市中央区大手前にある府庁本館北側の日本赤十字会館ビルにテナントとして入居しています。出先機関としては、「箕面整備事務所」が箕面市に、「阪南・臨海整備事務所」がりんくうタウン(泉佐野市)にあります。また、阪南スカイタウンには「総合案内センター」があり、現地を訪れた方の案内、分譲についての情報提供や問い合わせなどに対応しています。

りんくうタウンにある「阪南・臨海整備事務所」は1999年度に、阪南市尾崎にあった「阪南整備事務所」とりんくうタウン駅ビルにあった「臨海整備事務所」を統合し、りんくうエルガビルに 入居し現在に至っています。

土建支部は昨年12月3日、府民サービスの維持・向上、効率的な業務の遂行と適切な経費の支出という観点から検討し、「移転案の撤回を求める」申し入れを当局にしました。企業局の事業は、これまで職員の人件費、貸しビルの賃貸料金を含め府民の税金を使わず、すべて事業費で賄ってきました。しかし、昨年8月に発表された大阪府行財政計画(素案)で、企業局の財源不足を一般会計、すなわち府民の税金で補うことが明らかにされました。このことから、当局がいう「現地性の重視」がなぜ、賃貸料の高い「ゲートタワービル」への移転なのか、現在の出先機関の事務所を充実した場合や新たにりんくうタウン内の大阪府所有地に事務所を新設した場合の経済比較を求めました。移転費用が必要となる上、現地に出先機関をもたない千里ニュータウンや泉北ニュータウンの業務は、これまで以上に現地への移動に時間と経費がかかることになります。JRと南海電鉄ともにりんくうタウン方面の路線は特定区間で運賃が割高となるため、職員の通勤手当と出張旅費の経費が増大します。

また、(表-1)のとおり企業局の事業は大阪府の北部から南部まで広範囲にわたっています。そのため、大阪市内に本庁職場を置くことが地域的な不均衡を生まずに、府民サービスを提供できるのです。大阪府庁には、大手前の府庁周辺に本庁職場を置かない組織はありません。5月議会、9月議会、決算委員会、12月議会、新年度予算編成、補正予算編成、そして2月議会と他部局や議会関係者との調整、協議は日常的な業務となっています。本庁職場がゲートタワービルへ移転すれば、他部局との打ち合わせ等のために、片道の所要時間が1時間半も必要となります。往復3時間という時間は、出張旅費の増加にみにとどまらず、超過勤務の増大という労働条件の悪化も招くおそれがあります。

以上のように、移転案は当局のいう「現地性の重視」ではなく、「ゲートタワービル(株)の救済、支援策」であるといわざるをえません。

企業局会計に府民の税金投入は問題
ゲートタワー㈱は出資者主体で経営改善を

大阪府行財政計画(案)では「10年間の計画期間を目途に企業局事業を収束します」としています。企業局の組織と人員は毎年、縮小・減員となることは明らかです。なぜ、この時期にゲートタワービル移転なのでしょうか。

りんくうゲートタワービル(株)は1990年5月8日に設立されました。当初は南北二棟のツインのビルを予定していましたが、バブル経済崩壊による商業業務ゾーンからの相次ぐ企業の撤退により、91年12月に北側一棟のみに変更し、96年秋にオープンしました。資本金は150億円で、出資金は大阪府が51億円(34%)、日本政策投資銀行が15億円(10%)で、以下(表-2)のとおりですが、出資額の上位10位(全出資者は126社)のうち大阪府以外はすべて銀行となっているのが大きな特徴です。大阪府の出資金は企業局の会計から支出されています。

ビルの入居状況はビル全体で91%、一般賃貸フロアーで73%、2000年度の経常損失は約14億円で累積損失は96億円にものぼっています(2001年3月31日現在)。その一方で、子会社の株式を約8億2千万円、長期貸付金として12億円など合計20億円余りを投資等として資産計上していますが、子会社も含めた累積赤字は121億円とされています(2001年5月14日「産経」)。

ゲートタワービル㈱の借入金は長期・短期合わせて約360億円(2001年3月31日現在)ですが、その借り入れ先は、日本政策投資銀行から約130億円、市中銀行からは約200億円で、そのうち三和、大和、三井住友、住友信託の4行で85億円となっています。市中銀行分の返済期限は昨年の3月末でしたが、経営は赤字で返済が困難なため、大阪府は日本政策投資銀行と市中銀行との間で折衝した結果、返済期限の延期や利息の引き下げについて合意させることができました。(前出「産経」)しかし、ゲートタワービル㈱の赤字経営の基調は変わりません。毎年、10数億円の経常損失を出し、企業局が移転したとしても黒字にはなりません。

企業局はゲートタワービル㈱支援策として、2000年度には14億円余りを貸し付け、今年度も7億円余りを貸付金として予算計上しています。しかし、企業局の支援策はこれにとどまりません。企業局はゲートタワービル㈱に、93年度から95年度の3年間に117億円を貸し付けましたが、96年度に一括返済を受けると、150億円を建設負担金として支出したのです。負担金は返済が不要の支出です。企業局に比べると、同じ出資者でも銀行の場合は利息を含む返済を受けることができます。いま、赤字経営のゲートタワービル㈱に求められるのは出資者が一丸となって難局を乗り切ることであり、一方的に企業局が負担を担うことではありません。これまでと異なり、企業局の会計に府民の税金が投入されようとしており、ゲートタワービルへの移転案について当局の説明責任が強く求められます。

(表-1)企業局の事業とその所在地

事 業 名 所 在 地
千里ニュータウン開発事業 吹田市・豊中市
泉北ニュータウン開発事業 堺市・和泉市
堺・泉北臨海土地造成事業 堺市・泉大津市
二色の浜環境整備事業 貝塚市
りんくうタウン整備事業 泉佐野市・田尻町・泉南市
阪南スカイタウン開発事業 阪南市
水と緑の健康都市開発事業 箕面市

(表-2)主な出資者と出資金・割合(2001年3月31日現在)

出資者名 出資金 (千円) 出資割合
大阪府 5,100,000 34.00%
日本政策投資銀行 1,500,000 10.00%
㈱三井住友銀行 500,000 3.30%
㈱大和銀行 401,250 2.70%
㈱三和銀行 380,000 2.50%
住友信託銀行㈱ 320,000 2.10%
㈱近畿大阪銀行 300,000 2.00%
㈱新生銀行 250,000 1.70%
㈱日本興業銀行 240,000 1.60%
㈱東京三菱銀行 220,000 1.50%
その他 5,788,750 38.60%
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